2023年12月22日公開の映画『PERFECT DAYS』。
内容に関して前知識はほとんど入れず、ちらほらと目にする感想や口コミから興味が沸いて観に行きました。
後から知りましたが、第76回カンヌ国際映画祭で役所広司さんが最優秀男優賞を受賞なさっていたのですねー。
あらすじ
寂れたアパートにひとり暮らす、物静かなトイレ清掃員・平山の日々をドキュメンタリーの如く追っていく。
変わらないルーティン、いつもの日常。
そんな一見して何の変哲もない日常に小さなアクシデントやドラマが生まれ、観客は引き込まれていく。
特に涙を誘わせたり、強烈な衝撃や感情を求めているわけでもなく(ある意味ではそのような感情も沸き起こるけれども)、ドラマチックな最後を迎えるでもなく、ただただ主人公・平山の日々が淡々としかし美しく描かれています。
第76回カンヌ国際映画祭で役所広司が最優秀男優賞を受賞
冒頭でも触れましたが、カンヌ映画祭で役所広司さんが主演男優賞を受賞していたんですね。
他にノミネートされていた作品などを全くチェックしていないので妥当なのか自分は判断できませんでしたが、納得の演技なのではと。
あとでパンフレットを読んで知りましたが、脚本はあるもののほとんど一発撮りであれこれと演技指導などは無かったとのことなので、役所広司さんの「平山」の解釈がそのまま演技に表れているということですよね。
そう考えると素人ながらにすごい役者さんなんだなぁと改めて実感できます。
主人公の平山だけでなく、彼を取り巻く登場人物もそれぞれに良かったです。
同僚の「タカシ(柄本時生)」はホントにダメ男で観ているこっちも本気でイラつきました。でも良いところもありましたね~。演出としてちょっとあざとさを感じなくもなかったですが。
姪の「ニコ(中野有紗)」も如何にも思春期の現代っ子といった感じで。でも平山を慕っている様は観ていて気分は良かったです。こちらも演出としては想像されるニコの家柄を考えるとちょっとギャップがあり過ぎるような違和感はありましたけども。
タカシの恋人「アヤ(アオイヤマダ)」もモノクロの世界に色彩が加わるようで、東京のサブカルを象徴しているといった存在感がすごく良かったです。
こんなふうに生きていけたなら
公式のコピーにあるように、平山の日常はまさに「こんなふうに生きていけたなら」と強く思わせられました。
前述で「何の変哲もない日常」といいましたが、インターネットやSNSなど情報過多である現代において平山の日常は一線を画しており、まるで別世界の住人のようです。
仕事を黙々とこなす合間に木漏れ日に目を細めながら簡単な昼食を取り、仕事が終われば銭湯へ行って夕食がてら大衆酒場で一杯。
休みの日には、ささっと家事をこなしてゆっくりと自分の時間に浸って馴染のスナックへ。
木々を愛し、カセットテープの音楽を聴き、古書を読み、フィルムカメラで美しい瞬間を切り取る。
インターネットとは無縁の生活。少しのお金と住む場所さえあれば、質素だけれどもこんなにも豊に暮らせるのだ。
インターネットやSNSの情報に振り回されていつも時間に追われているような自分には、決して贅沢はしていない平山の生活だけれど、とても贅沢に映ります。と同時に、自分にはもはや平山のような生活はできないという絶望にも似た感情も生まれます。
「こんなふうに生きていけたなら」というのは、平山の生活スタイルだけでなく人間性にも思うところがあります。
劇中で起こるトラブルや事件に流石に苛立ちや戸惑いは感じているでしょうけれど、それをどこにぶちまけるのでもなく、すぅと受け流してまた自分に戻る。周りの人間に過度に干渉することもなく、迷惑もかけない。様々な過去があったと想起はさせるけれども、そんな人間中々いません。
私だったら、同僚タカシに対してキレ散らかしていると思うし、他の小さな事件にも感情が揺さぶらされまくりでぐちゃぐちゃになりそうです笑。
平山の人間性・日常に理想をみて、強烈な憧れを抱きます。
ただ、やっぱり理想過ぎてリアリティが無いというか(映画だからそんなもんなんだろうけど)、もう少し人間臭い部分もあったら良かったなぁと思わないでもないです。
THE TOKYO TOILET プロジェクトによる商業映画だった
トイレ清掃員である平山の日常を追っていますから、仕事風景も当然出てきます。そしてそのトイレは渋谷にあるアーティスティックなトイレばかりが登場します。
それはそのはず、この映画自体が「THE TOKYO TOILETプロジェクト(TTTプロジェクト)」発端の映画だからです。
その前知識が全く無いまま観たので、観ているときは違和感アリアリでした。
なんでこんなオシャレでキレイなトイレばっかり出すんだろう?
歌舞伎町とか飲み屋街の落書きだらけで不審者が出そうな、入るのに躊躇するようなトイレが出てきた方がリアリティあっていいのになぁ、とか思いながら観ていました。外国人監督で映画というより現代アート的な映像作品になっているからキレイなトイレを選んだのかしら、とか。
「トイレのPRにしか見えない」という口コミもあるようですが、当然でしたね。まさにトイレのPR映画だったのですから。
そういう意味では、PR映画を超えた芸術作品になっているので素晴らしいと思います。単純にすごいです。
とはいえ、純粋に映画として観るなら、やっぱりめちゃくそ汚いトイレとかも出して欲しかったですね。
日本はトイレの先進国として名高いですが、こんなキレイな公衆トイレばかりじゃないですからね~。
外国人の目に映る日本
賞賛の声が高いこの映画。SNSでも絶賛している感想を多く目にします。
が
歪んだ人間が観ると素直に観れないというか、完璧過ぎるが故に荒を探したくなるのか...
素晴らしい映画だとは思いますが、気になるところも多々あってこうしてブログにしちゃってるワケです。
ヴィム・ヴェンダース監督の作品を観るのはこれが初めてでした。他にどんな映画を撮っているのか知りませんが、この映画は本当に美しくて現代アートのようです。現に平山の観る夢はインスタレーション作品になっていますし、ホームレスのダンス(田中泯)も出てきますしね。
美しいインスタレーションや印象的なシーンはやはり映画館の大画面で観てよかったなぁと思わせてくれました。
でもやっぱり日本に生まれ、生活している日本人からすると、演出については所々気になっちゃいました。
トイレを取り上げるところは如何にもだなぁと思った点は、TTTプロジェクトだったからという点で納得です。
それ以外に「木漏れ日、盆栽、神社」というモチーフに如何にも外国人がイメージする日本、という印象を受けてしまいました。
『木漏れ日(komorebi)』は日本語特有の表現で外国人から人気の日本語として有名です。
劇中ではそんなに気になってなかったんですが、エンドロールを最後まで観てたら『木漏れ日』の説明が画面に出てきたんですよね。
海外の人に向けてならいいと思うんですけど、う~んて思っちゃいましたね。
こんなに素敵な言葉があるんだよ?すごくない?!みたいな、、、ほんとネジ曲がってすみませんね...
あとね、盆栽ね。
平山はそこらに生えている幼木を採取してミニ盆栽のようにして室内で育てることを趣味にしています。
木々を愛でるのも育てるのも別にいいと思うんですよね。
ただね~室内で紫色の植物育成ライトで盆栽って....っていう。
カセットテープだとか古書だとかあそこまで拘るなら、アナログに徹して欲しかったなぁと。
庭先や窓辺でさり気なく育ててるなら違和感なかったんですけど、
夜にぼんやりと紫色を放つ風景というのを撮りたかったんですかね~。ケチつけてホントすみませんね。
あと日本人だったら絶対にそんな演出しないだろうと思ったのが、神社の神主。
境内で盆栽に仕立てる幼木を採取しようとして神主にアイコンタクトとジェスチャーで許可を貰うシーンで、その時の神主の仕草がなんとも『外国人が思う日本人』じみててめちゃくちゃ違和感ありましたね~。『ZEN(禅)』て感じで。
ということで、すっごく『外国人の目に映る日本』ていうのを感じちゃいました。
もっと素直に観なさいよって感じですよね。ホント。
いい映画です
なんだか文句ばっかり書いちゃったみたいだけど、いい映画です。観てよかったと思います。
劇中出てくる音楽や本も興味をそそられました。本のタイトルも忘れないようにしないと!と思いながら観てたんですけど、ご丁寧にパンフレットに載っていたので良かったです(笑)。ちゃんと考えてくれていますね。
ヴィム・ヴェンダース監督の他の作品も観てみたいです。
中々まとまった時間が取れなくて、ブログネタは貯まる一方で。。。
ちょっとずつでも書いていかないとなー
ではまたー