2023年10月22日(日)『杉本博司 本歌取り 東下り』を観に行ってきました。前期と後期で展示替えがあり、行ったのは後期になります。
※会期終了しました。杉本博司(1948~)は、和歌の伝統技法「本歌取り」を日本文化の本質的営みと捉え自身の作品制作に援用し、2022年に姫路市立美術館でこのコンセプトのもとに「本歌取り」展として作品を集結させました。
渋谷区立 松濤美術館 https://shoto-museum.jp/exhibitions/201sugimoto/
本歌取りとは、本来、和歌の作成技法のひとつで、有名な古歌(本歌)の一部を意識的に自作に取り入れ、そのうえに新たな時代精神やオリジナリティを加味して歌を作る手法のことです。作者は本歌と向き合い、理解を深めたうえで、本歌取りの決まりごとの中で本歌と比肩する、あるいはそれを超える歌を作ることが求められます。西国の姫路で始まった杉本の本歌取り展は、今回、東国である東京の地で新たな展開を迎えることから、「本歌取り 東下り」と題されました。本展を象徴する作品である《富士山図屏風》は、東国への旅中に、旅人が目にする雄大な富士山を描いた葛飾北斎の《冨嶽三十六景 凱風快晴》を本歌とした新作で、本展で初公開となります。またこの他にも、書における臨書を基に、写真暗室内で印画紙の上に現像液又は定着液に浸した筆で書いた《Brush Impression》シリーズなど、本展は新作を中心に構成される一方、中国宋時代の画家である牧谿の水墨画技法を本歌取りとした《カリフォルニア・コンドル》など、杉本の本歌取りの代表的作品も併せて展示します。さらに、室町時代に描かれたと考えられる《法師物語絵巻》より「死に薬」を狂言「附子」の本歌と捉え、その他の8つの物語と共に一挙公開致します。
現代の作品が古典作品と同調と交錯を繰り返し、写真にとどまらず、書、工芸、建築、芸能をも包み込む杉本の世界とその進化の過程をご覧ください。
展覧会タイトルになっている「本歌取り」。上記でも説明されていますが、簡単に言ってしまえば「オマージュ」のようなものでしょうか。元ネタである作品・作家に敬意を評していますので、パクり・盗作とは異なります。
西(姫路)で開催された「本歌取り」展が、東(東京)に下ってきたので「東下り」という訳ですね。姫路での展示から新しい解釈が加わったとのこと。
存命作家ならではの巡回展ですね~。
館内はほとんどが撮影可能でしたが、安全性の観点から一部の場所では撮影禁止でした。
まずは第1会場から。
葛飾北斎「冨嶽三十六景 凱風快晴」通称”赤富士”を本歌取りした新作がお出迎え。
その他にも写真に関連して、写真の祖「ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボット」を本歌取りした作品なども。
第2会場入り口ホールでは『Noh Climax 翁 神 男 女 狂 鬼』と『杉本文楽 曾根崎心中』ヨーロッパ公演ダイジェスト映像が流れていて、これがめちゃめちゃ良かったです。
<「Noh Climax」シリーズ 杉本博司 ディレクターズノート> Noh Climax 翁 神 男 女 狂 鬼 杉本博司 私は前近代を見たいと思う。自然の光の中で、自然とともに舞い、自然とともに奏でていた頃の姿を。電気は芸能から気を奪ってしまった、気を撮り直さなければいけない。 その昔、能は五番立てで舞われていた。日が昇り、「翁」という神事のあと、朝日を浴びて始まり、夕闇の迫る頃、終った。神 男 女 狂 鬼 がその五番。 演劇は劇的でなければならない。人間の性(さが)を五つの性に演じ分ける。曙のうちに神が顕れ、男と女は絡み、狂気が襲い、異界の鬼が現れて終わる。 室町から桃山の場が与えられたとせよ。姫路城と圓教寺。昔のままの佇まい、昔のままのその気配。昔のままのその空気。 古面も与えられたとせよ。能を古面と舞う、能古面(ノーコメン)と、すばらしい。 万媚、小面、痩男。平太、神体、白式尉。そのあと中将も続きます。 なにからなにまで昔の通り、なにからなにまで昔の姿、なにからなにまで昔の響き。なにからなにまで昔のこころ、なにからなにまで昔のほうがよかったな。
<"Noh Climax" Series>
The Japan Foundation国際交流基金 https://www.youtube.com/watch?v=zocevUFpqyc
- Hiroshi Sugimoto "Noh Climax - Okina, Shin, Nan, Nyo, Kyo, Ki"
- Hiroshi Sugimoto "Noh Climax - Okina"
- Hiroshi Sugimoto "Noh Climax - Takasago"
- Hiroshi Sugimoto "Noh Climax - Tadanori"
- Hiroshi Sugimoto "Noh Climax - Ebira"
- Hiroshi Sugimoto "Noh Climax - Yo Kihi"
- Hiroshi Sugimoto "Noh Climax - Kayoi Komachi"
- Hiroshi Sugimoto "Noh Climax - Mochizuki"
「なにからなにまで昔のほうがよかったな。」
昔は昔で大変だったはず。だけどもっとシンプルだった。物や情報が溢れかえり、混沌とした今がとても生きにくいからこそ思うのかな。
文楽や能・狂言はテレビでチラりとしか観たことなかったのですが、こんなに素晴らしいのですね。カメラワークが良いというのもあると思いますけど。
う~ん、生で観てみたい!!
本展の関連として「杉本狂言 本歌取り」の公演があるようですが、チケットは完売!くぅ~~~残念!!
以前は喫茶室だったという「サロンミューゼ」には、いろは歌を本歌取りした『愛飢男(四十五文字)』が。
「いろは歌」のように仮名を重複することなく、意味を持つ歌に仕立てあげられています。
前期の展示では本歌取りした「いろは歌」だったようです。前期も観たかった!しかもリピート割(2割引き)もあったそうな....。
喫茶室だったということでソファとテーブルがあって、姫路での「本歌取り」と本展の図録をゆっくり読むことができます。
図録は公式オンラインストアでも買えます。
こちらも書から彫刻、古物などなどボリューム満点です。
特別展示室にもまだまだ作品は続きます。
建築家・白井晟一の設計による建築も見どころです。
館内建築ツアーもあるみたいなので、こちらもいつか参加してみたい!
何というかもう、興味の幅が広過ぎるし、実現できることの幅も広過ぎて圧倒されますね。
図録もご本人の解説がびっちりなんですよ。活動が多岐に渡っていて、そんな時間どうやって取ってるの??と本当にすごい仕事量です。
ホックニー展や横尾忠則展もそうですけど、第一線でずっと活躍されてる方って本当、内容はもちろんなんだけど、量もすごいですよね。しかも一つ一つの密度が高くて濃厚!
自分の怠け具合を顧みて反省してしまうくらいです。
濃密な展覧会をしかも白井晟一建築で見られる貴重な展覧会。
会期は11月12日(日)まで!ぜひに~