「あ、共感とかじゃなくて。」というのは、東京都現代美術館でデイヴィッド・ホックニー展と同時開催中の企画展タイトルです。いずれかの展覧会チケットで収蔵展も観覧できます。
多感な世代である10代の若者に特に観て欲しいということですが、もちろん大人も楽しめますし、実際観てよかったなぁと思いました。大人だって歳を重ねているだけで本当の意味でオトナなんて中々いないのでは。小さなことから大きなことまで悩みは尽きませんよね。
冒頭にこの企画展を紹介する動画が流れていて、本当にそうだよなぁと納得で、反省することもありました。
この動画はぜひ観てほしいです。
見知らぬ誰かのことを想像する展覧会
SNSの「いいね!」や、おしゃべりの中での「わかる~~~」など、日常のコミュニケーションには「共感」があふれています。共感とは、自分以外の誰かの気持ちや経験などを理解する力のことです。相手の立場に立って考える優しさや思いやりは、この力から生まれるとも言われます。でも、簡単に共感されるとイライラしたり、共感を無理強いされると嫌な気持ちになることもあります。そんな時には「あ、共感とかじゃなくて。」とあえて共感を避けるのも、一つの方法ではないでしょうか。
東京都現代美術館 https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/empathy/
この展覧会では、有川滋男、山本麻紀子、渡辺篤(アイムヒア プロジェクト)、武田力、中島伽耶子の5人のアーティストの作品を紹介します。彼らは作品を通して、知らない人、目の前にいない人について考え、理解しようとしています。安易な共感に疑問を投げかけるものもあれば、時間をかけて深い共感にたどりつくものもあります。それを見る私たちも、「この人は何をしているんだろう?」「あの人は何を考えているんだろう?」と不思議に思うでしょう。謎解きのように答えが用意されているわけではありませんが、答えのない問いを考え続ける面白さがあります。共感しないことは相手を嫌うことではなく、新しい視点を手に入れて、そこから対話をするチャンスなのです。
家族や友人との人間関係や、自分のアイデンティティを確立する過程に悩むことも多い10代はもちろん、大人たちにも、すぐに結論を出さずに考え続ける面白さを体験してほしいと思います。
自分の悪い癖だと思うのですが、つい理論的な答えや意味を求めがちなんですよね。仕事も関係してるかもしれないですけど。答えなんてあってもなくても、解釈だって人それぞれでいいときだってあるんですよね。
「わからない」という状態ってモヤモヤと気持ち悪いので、「わかった」という状態にしてすっきりしたいんですよねぇ。この世の中のもの全てを理解しようなんて土台無理な話なので諦めも肝心ですが。
この展覧会はタイトル通り、理解してもできなくてもいいというような作品がほとんどです。ということでこんな作品がありました、という紹介だけ。
有川滋男(ありかわしげお)
映像作家。人間は見ているものに、意味を読み取ろうとする。そこであえて意味を分かりにくくして、「見る」ことの不思議さを問いかける。アムステルダム在住
作品紹介手話動画▶「あ、共感とかじゃなくて。」展_手話動画_1有川滋男
東京都現代美術館 https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/empathy/
4分~12,3分程度の映像作品が計5点展示されていました。
...さっぱりわかりません。いや本当にすぐ意味を求めてしまいますよねぇ。「みる」といっても『どう』みるのか、『どこまで』みるのか、『見る』なのか『観る』なのか、だとか考えてしまいます。
答えのないことを考える面白さ、と言われてもやっぱり分からな過ぎると説明がほしくなってしまいます(苦笑)。
山本麻紀子(やまもとまきこ)
巨人の落とし物である大きな歯を作ったり、その歯を抱えて眠って見た夢の絵を描いたりしています。植物や土に触れながら、生きのびること、待つことについて考え、巨人の世界を知ろうとしています。
―どこかの場所について詳しく調査し、そこに住む人たちとのコミュニケーションを元に作品を作るアーティスト。落とし物を拾うのが得意。滋賀県在住
作品紹介手話動画▶「あ、共感とかじゃなくて。」展_手話動画_2山本麻紀子
東京都現代美術館 https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/empathy/
山本麻紀子さんのアトリエを模したような展示室になっていて、靴を脱いで歩き周れるようになっています。
刺繍の道具や収集物などが展示されていました。
正直、巨人の意味だとか、なぜ巨人なのかだとか、なぜ川に流すのかだとか、こちらもさっぱりわかりません。作家にとっては意味があることだと思うのですが。しかし、それでいいのでしょうね。
渡辺篤(わたなべあつし)アイムヒア プロジェクト
新型コロナがはやって、みんなが外出や人に会うのを控えていた時、同じ月を見て、写真を撮るというプロジェクトを始めました。寂しさを感じている人、見えないつらさを抱えている人がいることを、いつも思い出せるように。
―元ひきこもりで、当事者をケアする活動家でもある。アーティストとして、孤立している人の存在を多くの人に想像してもらおうとしている。神奈川県在住
東京都現代美術館 https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/empathy/
月が映し出された空間では、座ったり寝そべったりできるようになっていて、皆さん思い思いに過ごしていました。
この企画、とてもいいと思いましたし、こうやって展示されると純粋にキレイだなぁと思いますね。
考えてみると、遠く離れたひとたちが同時に同じ特定のものを見ることができるのって、月くらいかもしれないですね。
「星」だと環境や視力によって見える人・見えない人がいるでしょうし、「太陽」は直視できないし、「空」というと広過ぎるし。
「月」をみるという行為は昔から風雅なものとして行われてきましたが、より特別なことに感じます。
実際の月じゃなくて、月のライトの写真もあって、欲しくなってしまいました。
「アイムヒア プロジェクト」はこの東京都現代美術館だけでなく、国立新美術館でも「NACT View 03 渡辺 篤(アイムヒア プロジェクト) 私はフリーハグが嫌い」という小展示が行われていました。
一時期流行したフリーハグ(FREE HUG)を批判するかのような掲題ですが、上辺だけでなく本当に必要としている人にこそ寄り添うべきというメッセージが込められているようです。SNSで注目を集めるためだけに慈善活動を行う人々などについても考えさせられます(やり方次第だけど、それはそれでやらないよりはいい気もする)。
武田力(たけだりき)
演出家、民俗芸能アーカイバー。参加者との相互作用で生まれる作品や、盆おどりのように誰かの暮らしで生まれた動きを新しい世界に渡す活動など。東京都/熊本県在住
作品紹介手話動画▶「あ、共感とかじゃなくて。」展_手話動画_4武田力
東京都現代美術館 https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/empathy/
過疎高齢化によって失われつつある民俗芸能「朽木古屋六斎念仏踊り(くつき ふるや ろくさい ねんぶつおどり)」の継承プロジェクトの動画が展示されていました。
何か月も住み込みで稽古したそうですが、歌い手、踊り手、奏者それぞれに中々の技量が必要と見えました。確かにプロジェクト化しないと継承は難しそうです。
このような民俗芸能に限らず、文化・伝統の継承というのも色々考えさせられます。
自分がやれるわけではないのに、文化や伝統を継承していって欲しいと思うのは、何とも他力本願で自分勝手な願いだなぁと思ってしまいます。こうして実際に行動できる・行動するような方々には本当に頭が下がります。
こちらも、「アイムヒア プロジェクト」と同様で、共感を必要とし、共感を得ることによって実現したプロジェクトですよね。
「教科書カフェ(2019年)」では参加型の展示も。小学校の教科書など手に取って読むことができます。
中島伽耶子(なかしまかやこ)
空間を大きく斜めに横切る黄色い壁は、暗い部屋と明るい部屋を隔てています。壁の向こう側の様子は、音や光でうかがい知るしかありません。相手を知ることはできますか?対話のテーブルにつくことはできますか?
―壁や境界線をモチーフにして、分かりあえなさについて考える。家全体を使うなど、見る人が身をおく空間全体を作品にする。秋田県在住より
作品紹介手話動画▶「あ、共感とかじゃなくて。」展_手話動画_5中島伽耶子
東京都現代美術館 https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/empathy/
巨大な黄色い壁を隔てて対話することを考えるという試み。
最初は暗い空間の方から入ったので何が何だかでしたが、、、
反対側へ来てみると、なるほどでした。
片側から一方的に発信することはできますが、反対からは応答することが難しいです。
「対話する」ことをこうした体験から考えさせるという面白い試みだと思いました。
といった具合で、何が何だかさっぱりというものから、考え込んでしまうようなものが展示されていました。
「共感してほしい」「共感されたくない」「共感したい」「共感したくない」など、普段漠然と感じている感情を改めて問題提起されると色々な気づきがありますね。特にSNSに振り回され、かき乱されがちな若い世代に対して、「共感しなくてもいいんだよ」「共感されなくても大丈夫だよ」というあたたかなメッセージが込められていると同時に、共感することの大切さも訴えている展覧会でした。
つい意味や理屈を求めがちですが、人間というものがそもそもそういう生き物ということですから、直そうと思っても直らないのでしょうねぇ。
ただ「そういう性質がある」と認識していることが大事な気がします。
現代アートは一見意味不明だったりしますが、こういう日常の漠然としたものを説明してくれたり問題提起して考えさせてくれたりするのが面白いですよね。
会期終了間近ですが、ぜひぜひ足を運んでみてください。
コレクション展も一緒に
東京都現代美術館の収蔵品からピックアップされたコレクション展も同時開催中ですので、体力があればぜひ。
企画展が同時開催されているデイヴィッド・ホックニーの作品や、東京国立博物館で開催中の「横尾忠則 寒山百得」展と連動した「特集展示 横尾忠則―水のように」も観覧できます。
こちらも意識されてるのかな?東京都写真美術館で「即興 ホンマタカシ」展が開催中で、やはりホンマタカシさんの作品も展示されていました。
こちら、ほんの一部ですがコレクション展も見応えありました!※撮影禁止の作品もあるのでご注意を